2016年2月16日火曜日

医療従事者の手指の芽胞形成菌,興味深い結果の修士研究


追記
ここで解説した以下の論文が,公開された。

河瀬里美・菅原えりさ・梶浦工・黒須一見・小林寬伊 (2015)
医療従事者の手指から検出される芽胞形成菌に関する検討
医療関連感染, 8(2), 43-52.

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東京の看護師である河瀬里美氏から,約1年前に見せてもらった芽胞形成菌(spore forming bacteria)検出の修士研究(東京医療保健大学大学院)の成果が論文となり,河瀬氏から掲載雑誌が送られてきた。

河瀬里美ほか (2015)
医療従事者の手指から検出される芽胞形成菌に関する検討
医療関連感染, 8(2), 43-52.

単一施設の病棟看護師136名に対して,石鹸流水手洗い30秒後,アルコール手指消毒15秒を行い,接触培地にて手指の菌を採取,芽胞形成菌(Bacillus subtilis)のコロニー形成単位(colony forming unit, CFU)を計測した研究である。

1年前にデータを見せてもらった(2015年1月7日tweet)当時から非常に興味深い点が二つあった。ここで,この論文レヴューを兼ねて紹介しよう。

まず第一に,看護師の納豆摂食頻度と芽胞形成菌検出の有無に,有意な関連(Fisher 正確確率,p = 0.004)が見られたことである。下の図に,論文の表2のデータをグラフ化したものを示す。


納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)自体が学名どおり,芽胞形成菌である。しかし,手指を洗浄・消毒後に残存する菌数が,日常生活の納豆摂食頻度に関連するとは,データを見せられた当時から意外であった。今後,精査が望まれる事項である。

もう一つ興味深かったことは,芽胞形成菌の検出数の頻度分布である。次の図は,菌の度数分布(論文の図5)に対して,私がここで新たにポアソン分布(平均 λ=2.11)を適合させたものである。


見ての通り,ポアソン分布に従わず,かなり多くの菌が検出される人がいて,それに引きずられて,右スソが厚い分布となった。論文でも,石鹸流水手洗い,アルコール手指消毒しても,なお菌が多く検出される看護師がいることを指摘している。これらの手洗い及び消毒が重要なことは言うまでもないが,菌が多数検出される看護師の共通因子を探ることが今後の課題となるだろう。

このような興味深い結果を生む研究テーマを与えられた河瀬氏は幸運である。それも指導教授の慧眼ゆえだろう。研究データを早い段階から見せて頂いたことを感謝する。

河瀬氏の今後の研究および実践的成果に期待したい。