2012年9月6日木曜日

岡谷市・塩嶺病院直下の活断層: 岡谷市看護専門学校を設置


2012年に入って,岡谷市の塩嶺病院を一部改築し,看護専門学校を設置するという構想が進んでいる。今月(9月)になって,市議会で予算化の動きも見られ,改築費用が1億円以上だという(岡谷市民新聞9月4日)。

しかし,市役所も,市長も,市議会も触れてないようだが,塩嶺病院ほぼ直下には活断層が推定されることが最近の研究で分かってきた(澤祥・他,2007)。

下の図1は,この論文の第5図に示された,F21と命名された塩嶺断層の位置を取り出したものである。


図1.塩嶺断層。澤祥ほか(2007)の第5図および糸静線断層帯重点的調査観測変動地形グループ(2008)の地図(CN-4)より。塩尻峠ギャップ(宮越ほか,2004)の由来となった塩尻峠から塩嶺病院を通って,中央自動車道に至る活断層。

この地域は,従来,塩尻峠ギャップと呼ばれ,糸魚川-静岡構造線の中でも,活断層が存在しない区間とされてきた(宮越ほか,2004)。しかし,最近の詳細な調査で,ここにもやはり活断層が確認されたのである。この結果は,地球惑星科学関連学会2007年合同大会でも,塩嶺病院付近を通る活断層として発表された(渡辺満久ほか,2007)。

ちなみに,この宮越ほか(2004)の研究は,電力中央研究所が,原発の設計や建設地点の選定に当たるときの活断層の評価研究としてなされたものであり,論文を要約したリーフレット版も発行されている。

このF21断層は,松本市にある有名な活断層,牛伏寺断層(図2)の南方延長上にあたる。


図2.牛伏寺断層断層。澤祥・他(2007)の第4図より。マーカーEは,岡谷市看護専門学校(旧・塩嶺病院),Gは断層名の由来となった牛伏寺。

文部科学省・地震調査研究推進本部によると,牛伏寺断層は今後30年以内にM8クラスの大地震が14%の確率で発生されると推定されている。この地震発生確率は,国内2位に当たり,内陸では第一級の活断層と言える。

しかも,牛伏寺断層は,2011年の東日本大震災後,地震発生確率が高まった断層のひとつとして,同推進本部の地震調査委員会が発表している。

このように,牛伏寺断層,およびその延長上では,大地震が想定されているにも関わらず,塩嶺病院内に建設される看護学校が安全どうか,市議会や市役所内で議論になったという話を聞かない。

このような活断層系の直上に,1億円以上もかけて公共施設を作ることが望ましいのか,疑問である。

この塩嶺看護学校のケースは,同じ岡谷市内にある岡谷小学校が,地質・地盤調査の結果を受けて,現地での建て替えも耐震補強も実施しないと市が決定したのとは大違いである(長野日報3月6日)。

隈元・中田(2011)が,「活断層直上の教育施設の建設禁止,活断層直上の既存の施設を使用禁止が現実的なものである」と指摘したように,学校を新たに設置するなら,前もって地質・地盤調査を十分に行うことが必要であろう。少なくとも,まず地震や耐震建築の専門家の助言を受けるべきだと思うが,私の知る限り,そのような話を聞かない。

中田(2008)のように,学校や病院などの公共施設の設置・建設には法的規制が必要,と主張する活断層専門家がいることも知るべきである。

活断層の問題とは異なるが,辰野町では,観光用の外来種ホタル移入養殖による生態系破壊が起きている(長野県辰野のホタル再考:観光用の移入蛍で絶滅した地元蛍 松尾峡ほたる祭りの背景にあるもの)。それにもかかわらず,辰野町では,議会も役場も,だんまりを決め込んでいるが,それと似たような情報隠しが岡谷市でもあるのではないか,と思ってしまう。

<文献>
糸静線断層帯重点的調査観測変動地形グループ(2008)糸魚川-静岡構造線断層帯変動地形資料集No.2中北部(松本-茅野間)PDF
宮腰勝義・ほか(2004)地震規模評価のための活断層調査法・活動性評価法.総合報告U46,pp.189.リーフレットPDF.報告全文PDF.

隈元崇・中田高(2011)活断層直上に位置する教育施設-その特定と対策―.日本活断層学会2011年度秋季学術大会講演予稿集,O-01.PDF

中田高(2008)活断層研究の将来について.活断層研究 28: 23-29. PDF

澤祥ほか(2007) 糸魚川-静岡構造線活断層帯中部,松本盆地南部・塩尻峠および
諏訪湖南岸断層群の変動地形の再検討.活断層研究 27: 169-190. PDF

渡辺満久ほか(2007)糸静線活断層帯の「塩尻峠ギャップ」への疑問.地球惑星科学連合2007年大会予稿集,S141-005.

岡谷市で発掘された糸魚川―静岡構造線に伴う活断層に関しては,次のページも参照して欲しい。
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2014年11月22日

平成26年度から,岡谷市看護専門学校として開校している。

岡谷市看護専門学校は糸魚川-静岡構造線の活断層上にある。

岡谷市議会でも,同学校直下の活断層の存在について,議題に取り上げられたが,調査が全く行なわれないまま,看護学校は建設され開校したのである。原発でさえ,活断層の特定は難しい,というのが,市側の説明である。これに関しては,以下のページ参照。

この問題に関連して,日本活断層学会 2013 年度秋季学術大会で私が発表した研究も参照:
井口豊 (2013) 長野県岡谷市の塩嶺西山地域における断層と地すべり地形. 日本活断層学会2013年度秋季学術大会講演予稿集: 60-61.

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2014年11月23日

長野県北部で11月22日午後10時8分ごろ起きた最大震度6弱の地震(長野県神城断層地震)では,糸魚川-静岡構造線系の活断層である神城断層の一部が動いたようだ。このような活断層のほぼ真上に,岡谷市は看護専門学校を設置したのである。

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2016年5月4日

岡谷断層は,4月16日に熊本地震を引き起こした布田川断層と同じ横ズレ断層である。ただし,布田川断層が右横ズレなのに対して,岡谷断層は左横ズレである。

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2016年11月13日

熊本地震では,NHKと日本活断層学会の調査の結果,活断層から1km以内に,建物全壊となるような甚大な被害が集中していることが判明した。岡谷市の場合,活断層の直上に看護学校を新設したことになるので,呆れたものである。岡谷市は,事前にリスクを承知の上で,学校を建てたということである。