2011年12月2日金曜日

ナミテントウ(Harmonia axyridis)と千野光茂博士

ナミテントウ(Harmonia axyridis)と千野光茂博士

2011 年 11 月 29 日 13:20 に,岡谷市山下町の道路脇コンクリート上を歩いているナミテントウ Harmonia axyridis を見つけた。

属名ハルモニア Harmonia が美しい響きであり,テントウムシの一般英名 lady beetle も,かわいい。

次の写真は,撮影するため,少し触って動きを止めた状態である。

気温は 11.5 ℃ であったが,コンクリート面上で測ると, 15.1 ℃ であった。成虫越冬するとはいえ,あさってから 12 月という時期に活動しているのを諏訪地方で見かけるのは珍しい。ちなみに,この 2 日後の 12 月 1 日に岡谷市で初雪が降った。

フタボシテントウとでも言いたい模様だが,実は,このテントウムシの模様には,様々な種内変異が知られている。今回観察されたタイプは,二紋型(conspicua)である。かつて,生物学者・千野光茂博士が諏訪地方を中心に長年にわたり,各タイプの割合の移り変わりを調べた。その結果,二紋型が増加傾向にあり,それが気温上昇に関連するらしい,ということを突き止めたという,記念すべき種である。

その研究の一端は,遺伝学の権威であった駒井卓・京都大学教授が全国のナミテントウの紋様変化を調べたデータと共に,下記の共著論文で知ることができる。

Taku Komai, Mitsushigé Chino, and Yasusi Hosino (1950)
Genetics. 1950 September; 35(5): 589–601.
Contributions to the Evolutionary Genetics of the Lady-Beetle, Harmonia. I. Geographic and Temporal Variations in the Relative Frequencies of the Elytral Pattern Types and in the Frequency of Elytral Ridge
http://www.genetics.org/content/35/5/589.full.pdf

千野博士は諏訪市出身で京都大学理学部助教授だったが,戦後,旧制・諏訪中学が新制・諏訪清陵高校になるのに伴い,郷土出身の著名な学者を呼ぼうと言いうことになり,初代校長を務めた(是非にと,頼み込んだらしい)人物である。

他県の人から見れば,遺伝学者・千野光茂としか知られてないことが多いが,諏訪では有名な教育者であった。彼が校長当時,生徒だった人物に, 1996 年に第 5 回相澤忠洋賞を受賞された考古学者・武居幸重氏がいる。武居氏は当時,生物部員であり,授業をさぼっては千野校長の手伝いで裏山に登り虫を取っていたことを述懐している(縄文心象ブログ)。

校長が生徒をさぼらせて,自分の研究の手伝いとは優雅な時代である。しかし,そんな経験が武居氏の考古学での業績を生んだのかもしれない。

千野は,八ヶ岳におけるミヤマシロチョウ Aporia hippia japonica の発見者でもある。以下のページで,そのことにも触れた。

テントウムシと温暖化の関連では,私の研究室のウエブページも参照して欲しい。<

文化昆虫学者・高田兼太(Takada, 2013)による,尼崎市のケーキハウスショウタニ武庫之荘店の「柚子とホワイトチョコのムース」のテントウムシのトッピング関する論考にも触れてある。